幾度も試作を繰り返しても、納得するものができないのです。
試作品の評価は、友人達にもモニターを頼んでいました。試作品が届いては胸が高鳴り、試しては「ちがう」と落胆する日々が続きました。
私はその度に、次回作の修正依頼書を事細かに作っていました。
「なんで自分が思ったことが伝わらないんだろう」
「私の言い方が悪いのか」
「本当に出来上がるのだろうか」
試作の回数は、工場の歴史始まって以来の頻度だったらしいです。
それでも納得するものができません。
試作品で溢れかえった仕事場で私は考えていました。
「文章で細かく説明するから伝わらない。直接伝えよう」
次の日、私は工場に乗り込んでいました。
研究者にとって聖域であろう研究所に入り込み、横から指示するほど私は一生懸命でした。
細かに明確に指示したつもりでした。
後日、私が的確に指示をしたつもりの試作品が出来上がり、その結果のモニターのレポートを読みました。
それは、過去最低の評価でした。
ひどすぎて評価に値しない。この一文を読んだとき私の中で何かが崩れました。
「もういや。もう無理だ」
「好き勝手いいやがって」
睡眠不足でフラフラの思考回路が、どんどんマイナスに傾いていきました。
私は昔から仕事が好きでした。持ち前のバイタリティーでなんとか頑張ってきたが、もうどうしていいのかわからなくなりました。
「なんでこんなことを始めてしまったのだろうか」涙がボロボロあふれてきました。
「もうやめよう。あきらめよう」
出口のないトンネルの中に一人でいる感覚でした。
次の日、私は泣きはらしたひどい顔で、お世話になっている地元農家さんの畑になんの気になしに行ってみました。農家さんは、相変わらず一生懸命に畑仕事をされていました。
「私なりに一生懸命やりましたが上手くいきませんでした。だからやめます」こんなことをスラスラ言える人間はいるんだろうか。私はそんなことを思いながら畑仕事を見ていました。
すると農家さんは、突然話を始めました。
「物づくりとは、試行錯誤の繰り返しだよ。丁寧に丹念に手をかけなければいいものは育たない。時間がかかるものだ。そして最後はゆだねることだ。自然や相手にゆだねることだよ。パートナーなんだから」
「ゆだねる」
私の辞書にはない言葉でした。
すべて自分の想いだけ、やり方だけで押し通してきました。
私は、はじめて研究者Aさんの職人としてのクリエイティブの部分を、私自身がつぶしている事に気が付きました。
パートナにゆだねる。
相手はプロ。それも物づくりに熱い情熱を持ったプロです。
仕事は一人ではできない。
色んな人が関わり、化学反応が起き、出来上がります。
組んだ相手を信頼しようともせず、一人よがりで進めていたことを私は恥じました。
その夜、私はAさんに改めて依頼メールを送りました。
「私が言ったことはすべて一度白紙にしてください。後はAさんの思いのまま作ってください。Aさんを信頼しています。」
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